初出：2023/01/24
先生、楽して痩せるクスリってないんですかね？
あるよ。ちょっとツナっちで試してみようか。
あるんですか！？ いや、俺そんな太ってませんし！
まーまー、何事も実験は大事だから。痩せるのはコレ間違いないし。
先生のその口ぶりだと「ただし副作用はもちろんある」って副音声が聞こえるんですけど・・・
そりゃもちろん。ノーリスクで痩せられるクスリがあるなら世界から肥満の富豪はいなくなってるって。
そんなクスリを飲ませようとしないでくださいよ・・・
まあ、健康的に痩せたいなら運動するに限る。運動はすべてを解決する！
たまに出回る「食べると痩せる〜〜」
サプリメントでは肥満はどうにも止められない。
この食べた油！ なかったことに！！ なんてことはできません。これは、オルリスタットという、油の吸収を阻害するというダイエット薬の記事で触れた通りです。
いやいや、でもでも、食べるだけで痩せるゼリーがあるって都市伝説が・・・みたいな感じで、ごく希に、本当に食べると痩せる謎商品が出回ることがあります。
最近だと2023年1月にニュースになりました。
この記事ではこの「痩せるゼリー」とその成分について紹介していこうと思います。
ノーリスクで痩せられる薬はない
まず、ノーリスクで脂肪燃焼を促進して、素人が考えなしに使ってダイエットできる効果のある薬剤はありません。
サプリメントは健康補助「食品」ですから、食品はカロリーを足すものであって減らすのはそもそもおかしな話です。あり得ないわけです。
では、このたび話題になったゼリーはどうなの？ というと、シブトラミンというアメリカなどで使われている、日本国内では未承認のガチ肥満治療薬が入っている違法商品であることが分かったわけです。
ようするに、医師のコントロールで使うような薬を勝手に食品にまぜて商品化したら、まぁ効果はあるよねという話です。
覚醒剤から始まった肥満の薬物療法研究
このシブトラミンという成分。もう少し掘り下げておきましょう。
肥満の薬物療法は，肥満大国アメリカで、1940年代から覚せい剤（アンフェタミン）に食欲抑制や脂肪の細胞の減少などの効果があることをスタートに、多くの薬剤が開発されてきて1970年代にいろいろ出た時代背景を持ちます。
その後、デクスフェンフルラミン，シブトラミン，リモナバンあたりが高ＢＭＩの人向けに、処方薬として使われています。これらは脳内アミン作動薬で中枢性食欲抑制薬と呼ばれるもので、日本でもマジンドールが処方されています。
分子構造を見てもらうとわかるのですが、なんとなく覚せい剤骨格を持っているのが分かるかと思います。もちろん、ここまで装飾されていると作用する部位が変わるので、あくまで雰囲気程度にみてもらうほうがいいです。
シブトラミンの働き
シブトラミンは中枢シナプスでノルアドレナリンとセロトニン再吸収を抑制して，βアドレナリン受容体やセロトニン受容体を刺激します。
これにより、食欲抑制効果を、また興奮剤としても作用し、代謝亢進、呼吸の増加、酸素消費量を増やし、また、末梢組織のβ3アドレナリン受容体を介した熱産生促進作用（つまり体温を上げる）作用もあります。
要するに食欲を下げて脂肪を無理矢理熱に変える働きがあると言えるのです。
この結果として痩せる訳ですね。ただし、後述するようにもちろんこれらの効果は副作用としても働きます。
シブトラミンの副作用・薬は用法用量を守らないといけない
問題の副作用ですが、ちょっとマニアックな話をすると、シブトラミンのフェニル基（ベンゼン環の部分）に付いている塩素、ここにハロゲンが付いているのですが、同様の構造的特徴をもつ幻覚性を持つアンフェタミン系ドラッグが多くあります。
シブトラミンも大量に服用すると、副作用としてこれらのドラッグに近似した、血圧の異常上昇、悪寒、立ちくらみ、吐き気、そしてサイケデリックな知覚異常が出る傾向があり、件のゼリーを食べた人の体験談と非常にマッチします。
故にかなりの分量が含まれていたのではないかと考えることが出来ます。本来の用法用量を無視した結果、健康被害が生まれたということ。
本来はちゃんとした薬ですが、こうした不良業者が間違った使い方をするせいで、薬剤自体の印象が悪くないのはとてもよくないことなので、ニュースの変な印象操作にのっかって、シブトラミンは毒みたいに思考停止しないように気をつけてもらえれば幸いです。
著者紹介
作家、科学監修。「科学は楽しい！」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計5０万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画／アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ！」と１００万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する！」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー１6万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku
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