初出:2015/03/31 Vol.113 池で泳いではいけない理由
改稿:2024/10/21
おや、先生・・・その胴長どうしたんですか? 誰か始末したんですか?
人聞きの悪い。暖かくなってきたし、昆虫や水草の採集に使う道具の手入れをしていただけだよ。
これは失礼・・・でも先生と胴長の組み合わせだと非常に胡散臭くてですね。
ひどい(笑)。まあでも、フィールドワークに装備は重要なんだよ。池や川には意外と汚染物質や原虫やら危険なものが多いからね。脳や角膜を食われたくないし。
怖ッ!
せっかくだから、今回はその辺の話をしよう。水遊びをしたらきちんと手と顔と目を洗わないといかんのである。
池で泳いではいけない理由
春から夏、少しずつ気温が上がっていくと、水遊びが楽しいシーズンです。特に春先、ちょっと暖かくなってくると、あちこちでバシャバシャと水遊びをしたくなります。
特に、子どもなんかは多少、水が汚れていても、気にせず入っていってしまいがちです。
かくいう自分も、ヒシの生い茂る池で、腰まで浸かって虫取りをよくしていました。
しかし顔や口にそうしたよどみの水が入るような状況は年齢を問わずあんまりよくありません。
理由は汚いからです。
この「汚いから」というのを、ただそれだけで済ませてしまうのではなく、もっと明確に理由を説明していこう、というのが今回の話になります。
「よどみ」には汚染物質が溜まりやすい
まず、池の水には汚染物質が溜まりやすいといえます。
池に流れ込むのはだいたい小川、そこから供給された微量の成分も、池の表面積で蒸発して濃度が上がります。
汚染物というのは、人間が作り出したものもありますが、微生物が生産したものもかなり含まれます。
特に、藍藻類が作り出す成分、かび臭さのジェオスミンはまだ無害なほうで、ミクロシスチンなどのシアノトキシンが含まれていることがあります。
これが無視できない危険があるのです。
流れのない場所の水はベア・グリルスでさえ飲まない
シアノトキシンの毒は結構強力で、家畜が水を飲んだだけで、神経毒によってそのまま昏倒死することも。
また肝機能にダメージを与える毒によって、肝臓が腫れ上がって斃死する事があります。
人間の誤飲はあまりないので、事例は少ないですが、池の水はそのままでは飲まない方がいいということです。
体を張ったサバイバルで有名なベア・グリルスも、水を調達する際、流れのない場所の水は見た目綺麗でも危険、可能な限り煮沸してから飲む、と、たびたび番組中で触れていますね。
かなり過激なことをするベアでさえ、淀みの水は避けているわけで、何をいわんやという感じです。
角膜を食らうアメーバ
また、アカントアメーバなどの原虫の数も多く、人間の粘膜、特に目に入って、アカントアメーバ角膜炎を起こすことがあります。
アカントアメーバはどこにでもいる微生物で、細菌を栄養源としているのですが、細菌のかわりに人間の角膜をもしゃもしゃ食べるので、視力低下や失明なんてこともありえます。
また治療薬は、内服薬と点眼で、非常にキツい副作用が特徴で、特に目薬は、アカントアメーバの激痛をさらに上回る激痛で、それを毎日何回も点眼しなくてはいけないというもの。
基本的には角膜にキズが無ければ滅多なことでは入り込まないのですが、池や川遊びをしたあとは、よく手を洗って、顔や目も綺麗な水道水で良く洗いましょう。
海外ではアメーバに脳を食われた事例もある
また、関連の公衆衛生に関しての記事でも触れたことですが、日本では滅多にいないものの、世界的に見れば「脳を食うアメーバ」がいたりします。
日本の水道水はそのまま飲めるほど(世界的にはこれは珍しい)安全ですが、海外ではそうではなく、アメリカはシアトルで、水道水で鼻うがいをしたおばあちゃんが、そこに潜んでいたアメーバに脳を食われて亡くなった事例があります。
ましてや池や川の水では、という話です。昨今では感染症対策のため、手洗いうがいはしっかり行われているわけですが、淀みの水に触れた場合は普段よりも丁寧にやるように心がけた方がいいと言えるでしょう。
ちなみにこの「脳食いアメーバ」の話は、以下のグァバちゃん先生の解説もご参考にどうぞ。
~感染症をかるめに紹介~🌟セレクション🌟
— 🍹グァバちゃん @薬理怪人 (@BanziroG) October 22, 2022
vol.159『原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)』
鼻から脳へ食い進む
脳を悉く食い荒らす
(下に続く)#感染症をかるめに紹介 #感染症 #感染症対策 #フォーラーネグレリア #ネグレリア #脳食いアメーバ #PAM #原発性アメーバ性髄膜脳炎 pic.twitter.com/bILmGQ4XjW
環境を破壊する「アメリカザリガニ」
というわけで、今回は水遊びとその危険について触れてきました。
自分は今でもフィールドワークで川や池に行く訳ですが、そこで問題になっているのが「アメリカザリガニ」。これがとんでもない環境破壊を引き起こす外来種なのです。
その詳細については、オイカワ丸先生(https://twitter.com/oikawamaru)に解説を頂いた動画があります。ご興味のある方はぜひご覧ください。
道頓堀川で泳いではいけない
阪神が18年ぶりに優勝したとかで「アレ」なんて表現されてますが、いくら嬉しいからといって、道頓堀川に飛び込んで泳いだりしてはいけません。
本記事で触れたような危険性は道頓堀川にもあり、大腸菌をはじめとした細菌、寄生虫たっぷりの「泳げない川」です。
感染症解説をしているグァバちゃん先生からも注意が出ているので、その恐ろしさを再確認していただければと思います。
川遊びで感染? 恐ろしい「レプトスピラ症」の話
また、河川から感染する病気の中でも恐ろしいのが、重傷化すると全身から出血、手遅れになると死ぬ可能性もある「レプトスピラ症」です。
その詳細については、グァバちゃん先生執筆の、有料チャンネルでお届けしているブロマガに詳細が載っているので、気になる方はぜひご入会をご検討ください!
著者紹介
作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計50万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画/アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー16万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku
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