初出:2017/12/26 Vol.256 俺日記
出版業界事情、第三回である。今回は本作りのコストなんかの話をまとめてみた。
単発の記事を寄稿するのと、「一冊の本」として作り上げるのじゃ、かかる手間が全然違いますよね。
「ちょっと写真が足りないので・・・」っていうんで、写真を撮ろうとして焼け死にそうになることもあるしな。
そんなことになるのは先生くらいだと思いますが、実験したり、検証したり、取材したり調査したりと、書いたものに責任持つためにも諸々、やんなきゃいけないことは山ほどあるわけで・・・
漫画や小説だって、裏側で資料を用意したり取材したりが必要だし、そして場合によってはリアリティを出すために、監修を入れることだってあるわけだしね。
実際に科学監修をやってますもんね、くられ先生。
はっはっは。ところで、前回は表面が焦げた程度だったわけだが、やはり焼け死ぬというならウェルダンにしなければならんだろうな(シュゴーーーーー)
自分で言っといてなんだけど、もうFireFoxネタ引っ張るのやめ・・・アチッ、あっつ、熱い!
印税10%の起源
出版不況の話、前回は著者に入る印税の話をしました。
100万部とか大当たりすれば、500円の本で印税10%であれば実に5000万円の収入になる。これは夢がありますね。
こうした大ヒットがワンチャンありえるのが作家活動なのですが、現実には初版3000部で印税7%とかで、様子見せざるを得ないことも多く、著者も出版社も赤字、という現象が起きているのが実情・・・という話でした。
しかし、前提としてお話しした「印税10%」という数字は、一体どこから出てきたものでしょうか?
印税が10%、という話は、どんな本でも出せば売れる、という、かつてあった時代の決まりだったりします。
その当時、高度経済成長期に、最低でも数万部くらい刷って、それが飛ぶように売れていたわけで、そういう頃に作られたあまり歴史のないものなのです。
改めて考えると、その頃と違って、出版物がぜんぜん売れない時代になっても、先の様子見案件のように下げられることもあるものの、基本は変化がないのは逆に驚くべきことで、よくみんな仕事できてるな・・・と、割と自分も思います。
本を作り上げるのにかかるコスト
ともあれ、前回、たとえとして出した「1000円の本を出して1万部売れた」とした時、著者に入ってくる印税は100万円という前提で、今回も話を進めます。
たまに見かける、著者の顔がででんと表紙に載ってるような、量産されてるキャリアポルノ本・・・中身のないビジネス書とかはともかく、普通に本を作ると、それなりに手間がかかります。
取材もしない、裏取りもしない、根拠もデータもない、無責任な書き物ならともかく、まともな「普通」の本であれば、それなりに出典となる情報、論文などを調べたりします。
写真を撮ったり再現性をチェックするために実験をすれば当然経費がかかりますし、技術系の記事であれば細々とした検証作業が必要です。
取材が必要なこともありますし、原稿の推敲をして、編集さんから戻ってくるゲラを見て、間違いや専門性の高い部分に齟齬がないか校正したり、なんだかんだで、一冊の本に対し最低でも半年くらいの緩い労働があって出来上がっています。
こうした事情を踏まえ、仕事として考えると1000円の本が1万部は出てくれないと、収益としてはかなり微妙なラインです。
すでに原稿料回収がされている場合でも、一ヶ月近い修正作業がだいたいあるので7000部くらいは売れていないと「仕事をした」という金額には到底届かないことも多々あります。
ありますが、前回触れた通り、最近の出版物は1万部刷ることも稀で、数千部以下でスタートする感じなので、重版しないと厳しい次第。
出版社としても一万部以下は赤字垂れ流し
そんなわけで、お金の流れを見ていくと、著者にお金を払ったあと、1000円の本で1万部売れて出版社に入ってくるのは600万円という計算になります。
これだけ聞くと「出版社が結構持っていくんだな」と、そう思われるかもしれませんが、さにあらず。
1万部以下の出版は、はっきり言えば会社からすれば赤字の垂れ流しにしかなりません。
基本的に、出版社は印税を「刷った部数」に応じて支払うという仕組みになっています。「売れた部数」ではありません。
つまり、売れても売れなくても、初版の部数分の印税というコストが、制作費に乗るということになります。
さっきの1万部の例えで言うと、1万部刷れば著者には100万支払う必要があり、そのあと5000部しか売れなかったとしたら、流通に支払う分を差し引きして350万円、そこから100万引かれて出版社には250万円しか入らない計算になります。
最初の「全部売れた」計算からすると、ぐっと入ってくる金額が目減りしますね。当たり前ですが、デザイナーさんに払うお金や、本を印刷するのにかかるお金もあるので、初版部数を絞らざるを得ないことがあるわけです。
この辺の細々した数字は省きますが(といっても同人印刷とコスト的には大差ないです)、1冊の本を売って会社としての利益を出すと考えると、編集者一人当たり、毎月最低でも数万部くらい(1冊の本で出ればいいけど、出なければ複数)の本を作らないと会社としてはけっこう辛い感じだったりします。
会社は給料が発生するので、その費用を考えると初刷り数千部でおしまいの本とか誰もが赤字でしかありません。
なので、数百円の本が3000部しか刷られないとか、そもそも印刷代の段階で赤字。売れても売れなくても赤字。なのにどうして出すのか・・・というより漆黒の話題になっていくのであります。
この辺は初回に触れた通り、銀行からの融資が・・・という話に絡んでくるわけですが、とりあえずはここまで。
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前回:著者に入るお金の実情
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