初出:2020/03/24 Vol.373 トイレ用洗剤はどうして酸性のとアルカリ性のものがあるの?
改稿:2023/11/01
本日は「混ぜるな危険」のトイレ用洗剤の話である! 塩素ガスはシャレにならないので絶対に混ぜないように!
先生、実験時の事故で塩素ガス食らったことあるって言ってましたもんね。
死にかけたことは何度もあるが、そのうちの一個だな。
しかし、昔から不思議なんですが、そんな混ぜたら危ないものがどうして洗剤として必要なんですかね?
それぞれ効果のある部分が違い、使い分けが必要になるからね。今回はその辺、トイレの汚れの仕組みと合わせて解説していこう。
はっはっは。ちまちまと洗剤使って掃除をするなど、面倒ではないか! やはり汚物はコレで消毒するに限る!(ゴォォォォ)
その火炎放射器どっから出したんですか、POKA先生・・・
下水のメタンガスに引火して爆発してもなんだから、炎はちょっと・・・
おっ! それもそうだな! 早速、地下で試してみることにしよう! ちょっと付き合え!(ガシッ)
見事な藪蛇・・・これはまたFireFox案件ですかね・・・
トイレ用洗剤の種類
トイレ用洗剤。代表的な商品としてはサンポールとドメスト。
実はコレ、まったく異なる中身だというのも、少しは化学を囓ったことのある人なら知っているでしょう。
基剤の違い・混ぜるな危険の基本
サンポールは酸性洗剤。基剤を塩酸としたかなり強力な「酸」です。
ドメストは塩基性洗剤。基剤に次亜塩素酸ナトリウムという「塩基」つまり強いアルカリを使っています。
酸性洗剤と塩基性洗剤を混ぜると塩素が発生して非常に危ない・・・というのは、誰でも知っていることかと思います。ちなみに実際に混ぜても反応しにくいように非常に複雑な調整が成されていますが、危険なので絶対にしないように。
しかしここまでの危険性がありながら、どうして酸と塩基、二つの強力な成分がトイレ洗剤に必要なんでしょうか?
トイレの汚れの仕組み
トイレの汚れも基本原理は水回りの水あか湯垢の類いと同じです。
できあがる汚れの大半は、湯垢と同じで便中の成分がカルシウムと結合して出来上がった汚れで、そこにたちどころに雑菌やカビが繁殖することで、バイオフィルムといった形で細菌の塊という感じで出現しています。これらは強いアルカリで簡単に分解することができます。
つまり塩基性の次亜塩素酸ナトリウム系トイレ洗浄剤(ドメスト等)で洗えば基本的には綺麗になります。
しかし、トイレには尿というものが存在する以上、尿石というものが発生します。
トイレを不衛生にしていると中に細菌が発生、その細菌は尿の中の尿素をアンモニアに分解するウレアーゼ酵素というものを持っています。
トイレが臭くなるのは尿石のせい
アンモニアは非常に水に溶けやすく、さらに溶けた水は強い塩基性となります。強い塩基性、つまりpHが高い状態になると、尿中や、水道水中のカルシウムイオンが水に溶けにくい状態になり、他の菌とかが作り出した炭酸イオンとなど結合し、炭酸カルシウムといった貝殻と同じような成分になります。
これら塩基性環境で生まれた尿石は当然ながら塩基性洗剤が効きにくいモノになります。
出来上がった尿石は多孔質の硬い構造で、さらにその中に汚れや細菌が住まう形になり、さらに尿石を基地として、さらに尿石が成長します。
トイレの中を掃除をさぼると急激に汚くなっていくのはこれが主な理由です。
尿石の細菌基地からはアンモニアが大量発生するので、トイレ自体がアンモニア臭い、つまり臭いトイレが出来上がります。
一度出来た尿石は薬品では落としづらい
そこでこの細菌の前線基地である尿石を破壊するのに必要になってくるのが酸性洗剤(サンポール等)。成分は塩酸なので強力に尿石を分解し、水溶性に変え汚れを落とすことができます。
しかし、尿石は水中にもできるためトイレのそこの部分である、水溜めエリアやその付近は水で酸が薄められて綺麗に汚れが落ちません。
どうしてもそこの汚れを落とすとなると、新聞紙やスポンジなどを駆使して中の水を空っぽにした状態で酸性洗剤を投入し、擦りながら落とすしかありません。
尿石は非常に硬い成分なので、汚れが慢性化するとトイレ用ブラシすら刃が立たない状態になり。それを打破するためには試薬級の高濃度の塩酸でも使わないかぎり薬品では落とすことができません。
普段から綺麗にするよう心がけるのが一番
そんな危険なものを掃除には使えませんので、手袋をしっかりした上で酸性洗剤を付け、800番くらいの紙やすり(小さく切った耐水ペーパーないしスポンジやすりがオススメ)を使い丁寧に擦るしか落とす方法はありません。
なのでトイレは尿石の層ができてしまうと根本的に綺麗にするのが困難なので、普段から綺麗にすることを心がけることが大事と言えます。
まとめ:洗剤の使い方
まとめると、普段の洗浄には、塩基性(ラベル欄に次亜塩素酸Naなどと記載されている)を使い、ブラシでこすっても落ちない汚れが気になってきたら、酸性洗剤(塩酸系)を使うとよいというわけで、2種類両方必要です。
ただし、この2つの洗剤を混合すると最近の商品はあまり激しく反応しないように調合されてはいるものの、猛毒の塩素ガスが発生します。塩素ガスは致命的な毒なので、けっして混ざらないように使うようにしましょう。
またトイレは便座だけでなくその周りにも飛び散った尿によって尿石汚れが発生します。
とはいえ、まわりにサンポールをぶちまけると掃除が困難なので、食酢を薄めたスプレーをかけて、1、2分おいてから、拭き掃除をするときれいになります。
塩素ガス? 塩化水素ガス?
動画シリーズ「毒物ずかん」で塩化水素を紹介しました。
動画冒頭、初っ端でツナっちがやらかしていますが(笑)、これは本記事で紹介した「混ぜるな危険」ではありません。
酸性の洗剤を使いすぎたのが原因ですね。たまにこの「塩化水素(HCl)」と「塩素(Cl2)」を混同している人もいますが、違うものです。
どっちも毒ガスなんですけどね。
著者紹介
作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計50万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画/アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー16万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku
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