初出:2020/05/05 Vol.379 お酒で薬を飲んではいけないと言われているけどどうしてなの?
改稿:2024/10/02
本日はアルコールと薬の話をお送りする。当たり前だが、睡眠薬を酒で流し込むようなことはしちゃダメなのである。
結構見かけますよね。大して効かないからお酒で飲んじゃえとか。
ワンチャン死ぬんだけどね。ガチャで言うならSSR引く感じで。
怖ッ! え、そんなヤバいんですか? 量飲んだらダメとかじゃなくて?
効果が足し算じゃなくて掛け算で働くことがあるんだよ。眠剤ワンシート飲んじゃいましたーとかは論外で救急車からの胃洗浄コースだけど、そうじゃなくてもうっかり死ぬ時は死ぬ。
はっはっは。ガチャでSSRが出るのはうれしいのだろう? ここに「SSR確定ガチャ」的などk・・・薬があるぞ!
この場合のSSR確定ってつまり飲むと死ぬってことじゃないですかヤダー!
お酒で薬を飲んではいけない理由
たまにビールやチューハイなど、お酒で薬を飲んでいる人がいます。
本来当たり前なのですが、これはとてもオススメできるものではありません。
特にアルコールとの併用が注意されている薬が病院から出ている場合(処方されている場合)は、原則お酒を飲むのは控えるというかやめておくべきものなのです。
こういう話をすると「なんでお酒で薬を飲むのはダメなの?」という、素朴な疑問が出ることもあると思いますが・・・
理由は簡単で、ヤバい副作用が出ることがあるからです。
今回はこの辺について、少し詳しく見ていきましょう。
睡眠薬をお酒で流し込むとワンチャン死ぬ
お酒を飲まないと眠れない→睡眠薬の処方を受ける→薬が弱いので酒と合わせないと眠れない
こういうとんでもない事例をたまに見かけますが、これは地味に危険です。
中枢神経を鎮静させる薬とアルコールの併用はその作用が足し算ではなく掛け算的に発動することがあり、その結果、呼吸不全や循環不全といった生命の危機に直結することもあります。
弱い薬だから大丈夫、何度も飲んでるし問題ないっしょ的な人もちょいちょい見かけますが・・・
端的に言うと、ワンチャン死ぬかもね、という話です。
「死」というSSRが入ったガチャを毎度回すのはあまりリスク工学的にもオススメできません(笑)
糖尿病とお酒と薬
あとは、糖尿病の薬とお酒の組み合わせも非常に危険です。
インスリンや血糖降下剤などの薬も低血糖から昏倒を引き起こすことがあります(糖新生阻害作用)。血圧降下剤も効きすぎて昏倒の危険性があります。
この辺は慢性疾患の薬が多く、その慢性疾患が酒タバコ暴飲暴食から来ていることが多いです。
つまり、これまた当たり前の話なんですが、薬を飲んでいればいいという話ではなく、生活習慣から修正しないとどうにもならない、ということ。
この辺は診察・処方時に説明を受けているはずなのですが・・・病院で注意されたくらいで生活を改める人はそもそも・・・(以下略w)
お酒と組み合わせると悪酔いする薬
あとはアルコールによって代謝変化が起きることで意外な副作用が出るモノもあります。
例えばセフェム系抗生剤やH2ブロッカー(胃酸を押さえるアレ)はアルコール分解酵素(ADHとALDH)の働きを鈍らせることで、頭痛や紅潮、動悸、頻脈、いわゆる悪酔いを起こしやすくなります。
抗生剤(厳密にはセフェム系抗菌薬)はお酒とあわせると悪酔いするよ・・・というわけです。
アセトアミノフェンとお酒は良くない
逆にお酒を飲むことで分解が促進されることもあり、吸入麻酔の多くは有機溶剤的な性質を持つモノが多く、薬物代謝酵素であるシトクロムP450のCYE2E1を活性化させることで吸入麻酔や頭痛薬として使われるアセトアミノフェンなどの効果を下げる(分解促進)させるなんてこともあるわけです。
またこの辺、詳しくは作用機序が違ったりしてややこしいのですが、深酒した後にアセトアミノフェンを飲んだりすると肝毒性を示すこともあり、危険です。
安易に薬とお酒を合わせて飲んではいけない事例だと言えるでしょう。
ちなみに亜留間先生が酒と風邪薬の飲み合わせについて、殺人事件があった、という話をされていましたが……
これにもアセトアミノフェンが使われています。具体的には「本庄保険金殺人事件」の第二の殺人です。
また、この辺の作用機序の話は、りりか先生がラジオライフの「新課程ア理科」で触れていたりもします。
より専門的なことを知りたい場合は、こちらもぜひお読みください。
お酒を飲むなら「楽しく適量」
というわけで、お酒と薬の飲み合わせの話をしてきたわけですが・・・自分は下戸なのでほぼほぼ酒を飲む事がありません。
なので、正直そうまでして飲みたい人の気持ちがわからんわけですが(笑)、飲むなら飲むで、楽しく適量を心掛けるのが一番かと思います。
青いお酒にご用心? デートレイプドラッグの話
また、お酒と睡眠薬というと「デートレイプドラッグ」の話があります。
性犯罪者がターゲットとする女性が飲んでいるお酒に睡眠薬を溶かして昏睡させて、という奴ですね。
2022年現在、大阪の料理店の店主が女性客を相手にやらかして逮捕された事件も起きました。
この手のものに使われるのはフルニトラゼパム(商品名:サイレース、ロヒプノールなど)が多く、問題になっています。
特にこの薬、アルコールとの相乗作用で健忘を起こすことがあって悪用されやすいという特徴があり、その対策もあって、粉砕したり液体に溶かすと青く染まるようになっています。
カクテルでは青い色をした綺麗なカクテルもありますが、下心のありそうな人間が差し出す青色のお酒にはくれぐれもご用心ください。
著者紹介
作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計50万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画/アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー16万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku
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