初出:2017/04/18 Vol.220 温湿布/冷湿布 どちらがいいのか?
改稿:2024/09/17
先生、日頃のデスクワークのせいか、目、肩、腰にガタが来ているんですが、良い湿布とかないですか?
運動しようよ。運動はすべてを解決するよ?
いやその、それは重々承知しているんですが、対症療法的なサムシングを何か・・・
まあ、運動して筋肉痛になったり傷めたりすることもあるから、塗り薬とか湿布とか、成分の話をしていこうか。
そんなに肩が凝っているというなら、この地殻爆砕絶対根絶マッサージチェアを試してみるが良い!
最終的にハンマーで光にされそうなマッサージチェアは勘弁してください!
はっはっは。流石に光にはならんぞ! せいぜい、歯のないお年寄りでも安心できるレベルで筋肉が断裂するだけだ!
ダメじゃん・・・
湿布で大切なのは痛み止め成分
過度の運動によって筋肉痛や、関節炎が出ている場合に使われるのが湿布薬。
湿布薬は、温湿布と冷湿布がありますが、実際は「暖かく感じる、冷たく感じる」物質が含まれている差であって、有効成分とはあまり関係がありません。
つまり、一番大事なのは、痛み止めとして配合されている成分が何か、という点です。
したがって今回は、成分を見ながら湿布について解説していこうと思います。
湿布の「暖かく感じる」「冷たく感じる」仕組み
とはいえ、温湿布と冷湿布の使い分けというのも、あるにはあります。
温湿布は血行促進作用などもあるので、炎症が起きて熱を持っている場合は冷湿布、特に熱をもっていない場合は温湿布程度の区別で十分なのですが・・・この、暖かく感じる、冷たく感じる仕組みはどうなっているか、これは結構簡単です。
温湿布は唐辛子の成分(カプサイシン等)で暖感を持ち血行を促し、冷湿布は、メントールなどの冷感成分で冷たく感じさせているだけです。
つまり、仕組みとしては自分が以前作ったミント液で自爆した時と変わりません(笑)
重要なのは痛み止め成分
この通り、冷湿布であっても実際に冷やしている訳ではありません。
冷えるとしたらゲルが分厚い商品が多いので、ゲルの吸熱効果、つまり水分が蒸発する際に冷えるという感じ。
この辺、熱さまシートなんかもそういう仕組みなので、あれそのものに解熱効果はありません。たまに勘違いしている人がいるので注意しましょう。
大事なのは、その痛み止め成分で、サリチル酸メチル(サリチル酸グリコール)などのエステル、インドメタシン、フェルビナク、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナクなどがあります。
むしろ湿布を選ぶ際はこの成分の方が重要です。
痛み止め成分あれこれ
サリチル酸エステル
サリチル酸エステルは古い消炎剤の一種で、頭痛薬でも有名なアスピリン(アセチルサリチル酸)の外用版といったものです。
これといって強い毒性もないのですが、皮膚が敏感な人は温湿布の場合にかぶれや痒みを感じる人がいるようです。
とはいえ、これはすべての湿布にいえることなので、サリチル酸エステルが悪いというわけではありません。効果は弱いですが長期的に使っても副作用が出にくいという点が優れます。
商品でいうと「サロンパス」や「サロンシップ」などがそうです。
成分を見れば、サロンパスは「サリチル酸メチル」、サロンシップは「サリチル酸グリコール」という形で含まれているのがわかると思います。その他の製品の場合も、裏書きの成分のところを見るようにしましょう。
インドメタシン
インドメタシンはある程度即効性のある成分で、昔は内服薬にも使われていたのですが、消化器系に対する副作用が強く、現在は塗り薬(外用剤)としての利用が大半となっています。
短期的に使うには良いのですが、長期的に使うと皮膚からゆっくりと吸収された成分が体にもまわることで、胃腸障害などを起こすことがあるので長期の使用に関しては注意が必要です。
このように塗り薬、湿布として売られており、有効成分としてデカデカと書かれている事が多いのでわかりやすいでしょう。
フェルビナク
フェルビナクも同じで、個人差もありインドメタシンと作用機構も同じため、どちらの成分が良く効くかというのは不毛な感じです。
副作用や注意点もほぼインドメタシンに準拠するので、長期の使用には注意が必要という感じです。
フェルビナクは若干、気管支系の副作用が出やすいので、喘息などの気管支疾患を持っている人は、病院で相談しましょう。
こちらもインドメタシン同様、塗り薬と湿布として販売されています。
ケトプロフェン
ケトプロフェンは、ケガや捻挫で病院にいくと処方されることの多い湿布薬によく使われており「モーラステープ」というちょっと高級感のある湿布をもらった経験のある人もいるかとおもいます。
ケトプロフェンは光過敏症を起こしやすいので、そこには気を付けなければなりません。
光過敏症とは、湿布薬を貼っていた部位に強い光(紫外線)があたることで、突然酷い炎症がおきる症状です。使用後数週間たってから起きた例もあるので注意が必要です。
薬局売りの市販品にも、このようにケトプロフェン配合の湿布があります。
ロキソプロフェン
今や薬局薬の定番鎮痛剤として君臨するロキソプロフェンはOTCになる前は劇薬指定でした。そのくらい強力な薬であり、ステロイド以外ではかなり強めの炎症を抑える作用がある薬といえます。
飲み薬の方が有名ですが、これも湿布があって、最近では割と手軽に買えるようになりました。
なお、飲み薬として痛み止めに使う場合は「ロキソニンは胃を荒らしやすい」ということでセットで胃薬が処方されることもあるのですが、りりか先生曰く「他のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)より胃粘膜に優しい」とのこと。
また感染症などの炎症には原則慎重使用(悪化に気づけなくなるため)ので素直に病院で見てもらいましょう。
ジクロフェナク
ジクロフェナクは、非ステロイド系の汎用薬の中では最強の成分で、強い痛み止め、炎症を抑える作用があります。
薬局では、ボルタレン貼り薬などが売られています。貼る程度ではほとんど血中には吸収されないので穏やかですが、飲み薬は胃をけっこう荒らします(飲み薬は市販薬にはなっていません)。
腱鞘炎などの比較的軽い炎症にはよく効きます。
この成分に限ったことではないですが、使用中、使用後に皮膚に発疹や発赤を生じたり、かゆくなったりした場合は、使用をやめて、長引くようであれば医師に相談しましょう。
内服薬との相性にも注意
このようにいずれの薬も、メリットデメリットがあり、思わぬ内服薬との相性もありますので、貼り薬だからという思考停止はやめて、内服薬と同じように注意深く自分を観察することが大事と言えます。
ちなみに、筋肉痛を抑える薬を使うと、筋肉の再生時に筋肉が育たないという根性論が存在しますが、生理学的に見ると差はないと考えるのが主流です。
著者紹介
作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計50万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画/アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー16万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku
「アリエナイ毒性学事典」好評発売中です!
「アリエナクナイ科学ノ教科書2」好評発売中です!
新刊「マンガでわかる! 今日からドヤれる科学リテラシー講座 教えて!夜子先生」好評発売中です!
関連記事・動画
薬ってどうして効くのか。痛み止めの話、前編です
後編はこちら
バファリンからサロンパスを作る
りりか先生の痛み止め対談動画
筋肉痛の科学
救急箱に入れておきたい薬局薬
市販風邪薬ランキング
薬局で売られている薬の安全性
薬局で売られている「ナイシトール」とダイエット
宣伝
ニコニコ動画にて有料チャンネル「科学はすべてを解決する!! ニコニコ秘密基地」を開設しました!
「アリエナイ理科式世界征服マニュアル」が改訂版となって新発売されます!
「アリエナイ医学事典2」好評発売中です!
「アリエナイ医学事典 改訂版」好評発売中です!
「アリエナイ理科ノ大事典3」、好評発売中です!
くられ先生の単著「アリエナイ毒性学事典」好評発売中です!
工作系に特化した「アリエナイ工作事典」好評発売中です!
「アリエナイ理科ノ大事典」改訂版が発売中です!
「アリエナイ理科ノ大事典2」、好評発売中です。