初出:2014/03/04 Vol.58 合法ハーブ
初出:2014/03/18 Vol.60 合法ハーブの中身
改稿:2023/11/22
脱法ドラッグ、今だと「危険ドラッグ」なんて呼ばれる事もあるみたいですが、あれって中身なんなんですかね?
あれ、草はおまけみたいなもので、実はそれにかかってる粉の方が本体なんだよ。
へぇ〜〜、大麻みたいに草に成分が含まれてる訳じゃないんですね。
うん。かかってるのは大麻類似成分で元々は鎮痛剤の研究から生まれたものなのだが、これが紆余曲折を経て極めてヤバいモンスターになっているわけだ。
・・・本当に「危険」だから危険ドラッグなんですね。ぜひ解説をお願いします。
【毒物ずかん】動画で見る脱法ドラッグの話
動画【毒物ずかん】シリーズで、脱法ドラッグこと危険ドラッグについて触れました。
書籍の毒物ずかんはこちら
かつてメルマガでも、合法ドラッグと呼ばれていた頃からの記事を載せていた事もあり、今回は動画の補足的にあれこれとまとめてみようと思います。
売ってる業者も手を出さない危険(脱法)ドラッグ
その昔、合法ハーブなどと呼ばれて、歓楽街に看板も出ていて、法の抜け道をくぐったドラッグが割とカジュアルに入手出来てしまう時代がありました。
今ではだいぶ危険性が周知されているので、アンダーグラウンドに潜り、そんな事もなくなったように思いますが、割とおおっぴらに宣伝を打っていた頃も、ほんの一昔前にはあったのです。
この辺は規制が進んだ結果です。しかし、今の危険ドラッグは見た目は草ですが、中身を知る販売業者は絶対に手を出さない・・・そう言われているほど、中身はヤバいものだと言えます。
今回は、その危険ドラッグの中身、成分について、やはり「危険ドラッグへの警鐘」として、ご紹介しようと思います。何がどうヤバいのか、というのを知る事は、身を守る上でとても大切です。
草なのは見た目だけ
かつて脱法ドラッグと呼ばれた危険ドラッグ。見た目は乾燥した植物で、いかにも大麻っぽさを感じるものです。
あまりケミカルっぽさを感じさせず、大麻に似た成分を含んだ植物かと思われやすいが、そうではありません。
中身は、何の薬物的な効果もない、適当な乾燥植物片に、化学合成された様々な精神活性の高い薬物を混ぜ込んだだけのものです。
要するにバリバリのケミカルドラッグで、偽装食品ならぬ偽装麻薬と呼べるものなのです。具体的な成分について見ていきましょう。
危険ドラッグの成分・偽装麻薬
さて、危険ドラッグの成分ですが、その成分の源流を辿っていくと、やはり大麻に辿り着きます。
大麻の主要精神活性成分であり、鎮痛作用を持つΔ9-THC。これを模したものが、危険ドラッグの中身です。
クラシカルなものではHU-210と呼ばれる、分子の構造式を見てもソックリなパチモノΔ9-THCといった感じでした。
1970年代に製薬メーカーが鎮痛剤として利用できないかと研究されていた論文に多くある、Δ9-THCの受容体の鎮痛に特化した成分(主にCPシリーズ、JWHシリーズが多い)を主要成分として含みます。
効果が低いので色々混ぜ物がされている
これらは鎮痛剤としての合成大麻成分なので、精神作用はオリジナルに比べ少ないです。それ故に、精神的な作用を及ぼすには危険な量を摂取しなくてはいけないということになります。
従って、危険ドラッグには危険な量が含まれると言えます。
さらに、精神活性の低さを補うために、カチノン系麻薬成分α-PVPやMDPVなどの、覚醒剤の親戚のような成分が含まれており、強い幻覚性を持ちます。
これらの成分が合わさって疑似大麻的な効果を偽装しているわけです。
臨床例がないのもヤバすぎる
この辺、今ではまとめてアウト扱いになってはいるものの、動画でも触れたように類似物質は大量の種類があります。
取り締まられては別の成分を、という感じでどんどん継ぎ接ぎされていった結果、生まれたのが今の危険ドラッグ。何がどう危険って、臨床例もへったくれもないですから、死にかけたりして救急搬送されても対症療法的な治療法しか存在しないわけです。
だいたい業者も、ジャンキーがどうなろうと知ったことじゃないので、中にどんな成分が入っているのかとか毒性がどうとか把握していません。
まったく安全性の確認されていない、死の確率がソシャゲのレアくらいな感じのガチャという人体実験をしているようなものです。
何がどう危険なのか
成分的な危険性もさることながら、製造工程にも危険性があります。
植物に粉を混ぜて振りかけるだけ、というその工程では、粉の混ざり具合はムラがひどく、有効量と毒性量が近い薬物では相当危険と言えます。
例えば 有効量が10mgで致死量が30mgの成分だとすれば、中で少しダマが出来ているだけで、即座に病院送り、最悪死に至るというケースもあるわけです。
実際に、数年前の時点ですでに数十人近い重症例と死亡例が報告されており、その危険性の高さはここ十数年の危険ドラッグの中でも指折りのものと考えてよいでしょう。
麻薬ダメゼッタイ、駄目ゼッタイと言うのであれば理由を挙げよ。
拙著、アリエナイ理科でも、何故危ないのか? どれだけのリスクがあるのか? ここまで知らしめて初めて「危ない」と納得しないのではないかと自分は思うのです。
追記:有効量、毒性量、致死量の話
最後に触れた、有効量(ED)、毒性量(TD)、致死量(LD)の話は、いきなり言われてもピンと来ないかもしれませんね。
この辺は、りりか先生の「薬の副作用」についての対談動画で、後半の方で解説があります。
端的に言えば、有効量は「効果が出る量」で、毒性量は「有害な反応が見られる量」、致死量はそのまま「飲むと死ぬ量」です。
有効量と致死量の幅が広ければ、多少飲み過ぎても危険の少ないモノ、ということになります。
一方で、有効量と致死量の幅が狭ければ、ちょっとでも取り過ぎると死の危険がある、ということです。
「大麻グミ」の出現と取り締まり
2023年11月21日現在の時点で規制の対象外となっていた大麻類似成分「HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)」が含有されたグミを販売、体調不良者が続出している問題がありました。
22日にも規制薬物指定、12月2日にも所持・使用の禁止となる見込みです。
本記事で触れたように、ケミカルドラッグとして草に吹き付けられていたものが、程度の差はあるのかもしれませんが、極めてカジュアルに食品であるグミとして販売されており、健康被害も報告されているというのはなかなかヤバいと思います。
で、これらに関して、自分の見解はTwitterでまとめたので気になる人はそちらもどうぞ。
著者紹介
作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計50万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画/アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー16万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku
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