初出:2014/04/08 Vol.62 空間殺菌と措置命令
改稿:2024/01/31
先生、今回はインチキ商品と消費者庁の措置命令の話ですか。
うむ。「措置命令出てやんの、ザマァwww」とかって草生やす連中もいるが、あれ、ただの注意でしかないんだよね。
なるほど・・・つまり、インチキ商品であっても、怒られるまでに売り切って逃げてしまえば・・・
濡れ手に粟だね。メシマズ案件だよ、実際は(笑)。空間除菌とかヒドいのあったからねえ・・・
空間ごと爆砕してしまえば除菌も殺菌もない!! 3、2、1・・・
やめて!
インチキ商品の話
世の中にはいろんなインチキ商品があります。
たびたび「このサプリメントには効果がない」「この健康食品の効果は大嘘」なんて話を今までしてきてるのですが、今回はやりすぎて棚から消えた「空間除菌」のインチキ商品の話を振り返ってみます。
初出当時、2014年。「空気中のウイルスを除菌!」などと謳っていた各種商品が、クレベリンスプレーを除いて、薬局やドラッグストアの棚から消えました。消費者庁から措置命令を受けたからです。
その当時はとうとうインチキ商品に天罰が下った!消費者庁グッジョブ!って感じで、ザマァというコメントなんかがありましたが・・・自分はそうとも思いません。
消費者庁の措置命令とは何か
消費者庁の出した措置命令とは一体何なんでしょうか。なんかお上が下した正義の鉄槌みたいに見えますが、実情はさにあらず。
措置命令とは、景品表示法に違反して、商品の品質や値段について消費者が誤解するような不当表示などをした業者に、その行為の撤回、再発の防止を命じる行政処分です。
この命令に違反した場合、2年以下の懲役刑または300万円以下の罰金刑が科せられます。
・・・がしかし、命令に従って、商品を取り下げればそれでおしまい。ようするにただの「注意」で、素直に言う事を聞けば懲役も罰金もないのです。
「空間除菌」の商品の中身
問題視された商品各種の中身は大変お粗末なものばかりでした。
亜塩素酸ナトリウムや、さらし粉のタブレットが入っているだけ・・・といった、あまりにもひどい商品もありましたし、また、それなりに歴史のある商品であるクレベリンについても、スプレータイプのものを除いて措置命令の対象になりました。
クレベリンは大幸薬品が発売しているブランドで、その主成分は二酸化塩素。この二酸化塩素そのものは殺菌能力は高いので、スプレータイプのものはセーフ判定。
汚染物の回りに振りかけておけば、二次汚染を減らす効果はあるでしょう。
ハイターでいいじゃん、という話
とはいえもっと安価な消毒剤でも効果は同じです。ぶっちゃけ薄めたハイターで十分。
ただ、空気中のウイルスとなってくると、ちょっと話が変わってきます。
空気中を漂うウイルスや、それを吸着したホコリなどの微粒子に対して、二酸化塩素が十分に不活化できるだけの濃度になると、その時点で人間の粘膜細胞が死に出すレベルになってしまうので、毒です。
怒られたら売り逃げして、そして復活する
それにしても、あからさまにアウトなインチキ商品でさえも、薬局やドラッグストアで堂々と売られていた訳です。
会社によっては数十億の売り上げがあったという話も・・・それだけ荒稼ぎして、怒られたら取り下げ、売り逃げしてペナルティゼロ、というのは、なかなかおいし・・・ヒドい話なんじゃないでしょうか(笑)。
ちなみに、措置命令を受けたとしても、問題視された部分・・・つまり優良誤認表示が改められればOKだったりもします。
実際、ゲルタイプ、スティックタイプのクレベリンは、広告における表現に問題があった、という話で、その辺を修正して、今も売られています。ちなみに当時の大幸薬品のニュースリリースは以下(PDF)
http://www.seirogan.co.jp/news/20140327Cleverin.pdf
コロナに便乗・空間除菌グッズは買うだけ無駄!
また、新型コロナウイルスの流行に便乗して儲けようと、また空間除菌的な商品が出てきそうな気配がします。
・・・と、その当時書いていたら実際に出てきてゲンナリしてます。
通販サイトなんかを見ると実際、性懲りもなく二酸化塩素だの亜塩素酸ナトリウムだのという製品がちらほら・・・
そもそも空気中のウイルスの付着したエアロゲルにウイルスが死ぬだけの二酸化塩素が入る濃度は人体にもかなり危険だというのは先ほども触れた通り。
つまり効果が確認できる濃度であれば毒であり、無害であれば効果もないということが言えるわけで買うだけ無駄な商品です。
「空間消毒」的なお祈り商品をみつけたらうっかり買わないようにしたほうがお得ですよ・・・
コロナウイルスと首下げ空間除菌グッズ
※2020/05/15時点での情報を追記します。
というわけで、コロナウイルス関連では案の定、首から吊り下げるタイプのインチキ商品が出て、カモ発見器的扱いをされていたわけですが・・・
https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_200515_02.pdf.pdf
例によって景表法違反(優良誤認表示)のおそれで行政指導されたようです。
行政指導は行政処分より軽いので、いきなり販売停止とかではなく、簡単に言えば「問題のある表記を直せ」というお達しです。
いずれにしても、こんな商品に騙されないように注意しましょう。
クレベリン12万個無償提供のカラクリ
※2021/02/17時点での情報をさらに追記します。
コロナウイルス騒動に乗っかってクレベリンで荒稼ぎしている大幸薬品ですが、全国の病院に12万個クレベリンをプレゼント、などと言い出しました。
話だけだとさも美談っぽく見えますが、その有効性は本記事で触れた通り。
もちろん、この話にはカラクリがあります。自分はこの手の製品の話をする際「本当に効果があるなら真っ先に病院で使われてる。そうでない以上はお察しである」なんてことを言うわけですが・・・
要するにこの「医療機関での使用実績」が欲しくてタダで送りつけているわけです。非常にタチが悪い。
亜留間先生もTwitterで警鐘を鳴らしています。
これはいささかならず一線を超えてるように思うんですが、本当にどうにかならんのでしょうかね?
因果応報の大赤字
※2022/02/19時点での情報をさらに追記します。
さて、そんなこんなで実に阿漕な商売をしているクレベリン。
コロナ禍に乗っかった事で爆売れしたので新しく工場を作ったくらいでしたが、しかし、ブームは失速。
2021年12月期連結決算では、最終利益が95億円の赤字になったようです。当て込んで作った新工場も操業停止状態だとか(笑)。
ちなみに一月ほど前の段階で、本記事で触れた件の後に更に追加で消費者庁から措置命令を出されています。
この措置命令について、大幸薬品はブチ切れ。反省するどころか法的措置を行うと言っています。
https://www.seirogan.co.jp/internal/uploads/arrival/pdf_656.pdf
何の事はない、思ったより売れなくて困ってるところに追撃が入ったから悲鳴を上げているわけです。クレベリンがコケたら後はもう正露丸くらいしかないもんね。
今回の措置命令はちゃんとダメージが出たようで、まさに因果応報と言えるでしょう。
置き型にも措置命令
※2022/04/15時点での情報をさらに追記します。
そんなこんなで、置き型の方にも改めて措置命令が出されました。
今回の置き型の2商品については、この前の1月の段階でまとめて措置命令を出そうとしていたところに、大幸薬品が差し止めを求める仮処分を申し立てて認められたので免れていた訳です。
が、東京地裁では認められたものの、東京高裁が申し立てを却下したために、改めて措置命令が出されたというお話。
関連ニュースに関してのTwitter他でのコメントは辛辣なものが多いですが、まあ免罪符レベルの社会悪だから仕方ないよね。
それでもクレベリンは売り続けるらしい
※2022/08/16時点での情報を追記します。
そんなこんなで、改めて措置命令を出されたクレベリンですが、怒られた部分を直した新パッケージで再発売を行うそうです。
性懲りもなく、って感じですが、クレベリンが売れないとなると、大幸薬品は立ちゆかなくなるということなんでしょうかね。
いずれにしても、これまでと違って流石に騙される人も減ると思うんですが、どうなんでしょう?
大幸薬品、「紺綬褒章」を返上していたの巻
※2022/09/12時点での情報です。
かつて大阪府に1万個のクレベリンを寄附した件で「紺綬褒章」を授与された大幸薬品ですが、返上していたことがわかりました。
紺綬褒章は、公益のため私財を寄附した者に授与されるものですが、上記の通り措置命令を食らい(後に6億円もの課徴金も払う事に)、弁護士ドットコムにつつかれ、ネットでも叩かれまくった結果、得る物より失うものの方が大きいと判断したのですかね。
不当表示最高額の課徴金6億円を食らうの巻
※2023/04/11時点での情報です。
本記事の通り、ずーっと、のらりくらりと誤魔化しては売り続けていたクレベリンですが、とうとう、不当表示としては最高額の課徴金、6億744万円の納付を命じられたそうです。
今度こそ消費者庁グッジョブ、ですかね?(笑)
6億払って更に売り続ける件
※2023/08/16時点での情報です。
不当表示最高額の6億円、それを払った上でなお、まだ売り続けるみたいです。
六億払っても売り抜けるつもりみたいです。度し難い。
「空間除菌」商品、4社に措置命令
※2023/01/31時点での情報です。
ここまでクレベリンの話が主でしたが、同様の空間除菌製品を販売していた4社、「興和」(愛知)、「ピップ」(大阪)、「中京医薬品」(愛知)、「三和製作所」(東京)に、消費者庁から新たに「景品表示法違反(優良誤認)で再発防止を求める措置命令」が出されたとのことです。
興和は「遺憾の意」を発表している一方で、他3社は受け入れる方針だとか。大幸薬品みたいに課徴金の納付まで行くのか、措置命令で終わるのか……
著者紹介
作家、科学監修。「科学は楽しい!」を広めるため科学書分野で20年以上活動。著作「アリエナイ理科」シリーズ累計50万部突破。原作を務めるコミックス「科学はすべてを解決する!!」も50万部を超える。著作「アリエナクナイ科学ノ教科書」が第49回・星雲賞ノンフィクション部門を受賞。週刊少年ジャンプ連載「Dr.STONE」においては漫画/アニメ共に科学監修を担当。TV番組「世界一受けたい授業」「笑神様は突然に・・・」NHK「沼にハマってきいてみた」等に出演。ゲーム実況者集団「主役は我々だ!」と100万再生を超えるYouTube科学動画を多数共同製作。独自YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」チャンネル約30万登録やTwitterフォロワー16万人以上。教育系クリエイターとして注目されている。関連情報は https://twitter.com/reraku
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