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遠足のバナナ問題から考える、法解釈とその種類【後編】:倫獄

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バナナはおやつに入りますか?

こんにちは、倫獄です。
引き続き、法律の解釈、その種類の話をしていきましょう。

前回は「おやつは300円までだけど、バナナはおやつに入りますか?」という、定番の問いかけを発端として、法律の解釈の話を掘り下げてきました。

社会的影響力、拘束力のある「有権解釈」の話。
そして、法律の文言を見ての「文理解釈」「目的論的解釈」。
さらには実際の解釈のお作法として「反対解釈」「縮小解釈」の話をした訳ですが、これらの詳細は前回をお読みいただくとして。

今回は縮小解釈における例として、憲法9条の話から参りましょう。

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日本一有名な縮小解釈:憲法9条

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

一見、憲法9条の条文は、戦う能力の一切を持つことを禁止しているようにも読めます。

しかし、独立国としての自衛権、憲法が国民の生命や自由といった権利を保護していることなどから、そのような解釈は現実的とはいえません。

そこで、言葉の意味を日常的な用法より縮小して解釈することで、

自衛のために必要な最小限度の実力としての自衛隊の存在が認められる

……というのが戦後の日本政府の公式見解(有権解釈)です。
もちろん、この「最小限度」は周りの状況に左右されますから、周辺国がきな臭くなってくれば防衛費の増額も可能というわけです。
なるべく増税幅は少ないといいなぁ……。

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続:様々な解釈の方法

さて、法解釈のお作法について、続きをやっていきましょう。
前回は、

「この橋をウマに渡らせることを禁止する」

というお触れを例にしたので、引き続きこれを前提として話を進めます。

拡張解釈

文言の意味を日常的な意味より広く解釈する
「ウマ」がダメなのだから、「ロバ」も渡らせてはいけない

拡張解釈は、法律の文言が狭すぎる場合に、その適用範囲を広げる解釈方法です。
これも法の趣旨や目的を考慮して、特定の事象を適用内とするために用いられます。
次の、類推解釈との大きな違いは、「言葉の意味の可能な範囲を超えないこと」です。
ロバは、ウマ科ウマ属の生き物ですから、ギリギリ「ウマ」と呼ぶこともできますよね。

類推解釈

「ウマ」を渡らせてはいけないということは、「牛」も渡らせてはいけない

類推解釈は、法律に明確な規定がない場合に、類似の事例についての規定を適用する方法です。
「そんなこと許されるの?」と思われるかもしれません。

類推解釈は、許される場合と許されない場合があります。
民法においては、結構な頻度で類推解釈が使われます。

Aという条文があり、その目的がA’であるという場合に、Aの要件には完全には合致しないけれど、よく似たところがある状況で、かつAを類推適用をすることが目的A’に資する様な場合、Aと似た別の状況にAを適用することが可能です。
民法は、私人同士の争いをなるべくフェアに整理することが目的なので、類推によりフェアな結論が導けるのであれば、そのような解釈も許されるのです。

他方、刑法において類推解釈は許されません。

これは当然で、法律にはAを禁止するとしか書いていないのに、全く別のBも禁止していると解釈権者が勝手に解釈し、その解釈を元に処罰されたらたまったものではないからです。
したがって、「この橋をウマに渡らせることを禁止する」が刑法の条文だったら、ウマを牛と解釈することは許されないことになります。

刑法199条が「人を殺した者は〜」と書いているからといって、

「人とチンパンジーは似ている!だからチンパンジーを殺した人も殺人罪!」

なんてことになったらとんでもないですよね。

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バナナはおやつに含まれるのか? 解釈してみよう

最後におさらいとして、最初に呈示した「おやつは300円まで」というルールについて解釈してみましょう。

まずは文理解釈を試みてみます。
広辞苑によると、「おやつ」は午後の間食を指すとされます。
そうすると、食事の種類は問わず、間食時に食べるものは300円までである……つまり、間食として持ってきたバナナはおやつであるが、お昼ご飯として持ってきたバナナはおやつではないという解釈が考えられそうです。

しかし、この解釈では、お昼ご飯として食べるために持ってきたポテチやケーキもおやつではないということになってしまい、不当な結論が導かれてしまいます。

このような解釈を、教室内で立法、行政、司法の全てを司る先生という権力者が採用するとは考えにくいですね(笑)

さらに言えば、遠足の場合のおやつは、お弁当の後すぐに食べることが想定されていると考えられることから、文理解釈にはそもそも馴染まないルールであると言えるでしょう。

そこで、立法の趣旨と目的に立ち返って、目的論的解釈を試みる必要があります。
では、「おやつは300円まで」というルールには、どのような目的があるのでしょうか。
実際のところは先生に聞いてみないとわかりませんが、ここでは二つの仮説を立てて考えてみましょう。

仮説1:学校内で貧富の差を発端としたいじめ等の問題を生じさせないために、300円までという限度額が設定された

仮説2:駄菓子類などの栄養価の偏った食品に限度額を設定することで、間接的に摂取する栄養をコントロールしている

仮説1の場合、子供たちにとってバナナがどのくらい嬉しい食品かも考慮要素になりそうです。
昭和ならともかく、令和の飽食の時代に、バナナごときで貧富の差を自覚するほど羨ましがられるかは疑問ですね。

この場合、同じルールでも、社会情勢の変化なども踏まえて判断する必要がありそうです。
実際、家族法などにおいて、社会環境の変化から裁判所の判断が変更された事例がいくつかあります。

仮説2の場合、バナナの栄養価について考える必要がありそうです。
バナナは、駄菓子類に比べると栄養価が高く、ビタミンやミネラルなども含まれます。
そうすると、駄菓子と同様の限度額を設定する意味は乏しく、縮小的に解釈する理由となりそうです。

これ以外にも、過去の遠足でバナナがどのように扱われてきたか(判例)や、他校での取り扱い(国際的な標準)なども考慮に入れた上でルールを解釈する必要があります。

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みんなもやってみよう!

さて、「バナナはおやつに入りますか?」という遠足の定番問題を通じて、法解釈の世界を少し覗いてみました。

法律と聞くと、論理的で、答えが一意にキッチリ決まっているような印象を抱いている人も多いのですが、法解釈というのは、実は結構多義的で、複雑な営みなのです。

今回説明したような意味での「有権解釈」は、先生にしかできませんが、一般的な解釈であればだれでもできます。

皆さんも是非「おやつは300円まで」のおやつにバナナが含まれるかどうか、解釈してみてください。

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