初出:2018/10/02 Vol.296 経皮毒という言葉
経皮毒という言葉
シャンプー。頭皮を洗う界面活性剤だが、その種類は様々、そして、纏わる都市伝説も様々です。
薬局で迷っても、医薬品に関してはエキスパートの薬剤師もシャンプーの成分まで造詣の深い人はさすがにおらず「肌に合った物を選んでください」的な回答しか得られず、どのように選べば良いのかはサッパリ・・・という経験がある人も多いことでしょう。故に、拙著の「薬局で買うべき薬 買ってはいけない薬」(ディスカバー21)でも、詳しく取り上げ、その成分の選び方などを乗せたところ非常に大きな反響がありました。
まともに語る人が少ない世界だからこそのオカルトがまかり通りやすいようで、経皮毒などといって、シャンプーの成分が内臓に蓄積するだの、免疫疾患を起こすだの・・・という話までまかり通っており、医者や薬剤師の中にもウッカリ信じてしまっている人までいる次第。
今回は、そうしたシャンプーにまつわる都市伝説、特に「経皮毒」に関して、科学の目、つまり配合成分から冷静に判断していきたいと思います。
成分表示を見て、その商品が何かがわかれば、ニセ科学やオカルトも正体見えたり・・・というわけなのです。シャンプーオカルト一刀両断、しばしお付き合いください。
シャンプーが内蔵に溜まるという説は本当なのか?
まずは、シャンプーの話題になると必ず出てくる「経皮毒」という言葉。
この言葉は、東京薬科大博士課程を終了した竹内久米司という薬学博士が作った言葉であり、氏の書籍で提示された、界面活性剤の「毒性」を説明したときに使われています。
氏の説は「シャンプーの中に含まれるプロピレングリコールやラウリル硫酸ナトリウムなどが、皮膚組織を容易に突破し、体内に侵入。それらが肝臓や子宮に蓄積し、アトピーなどのアレルギー病や不妊症、癌などの原因に・・・」という理論です。
多くの人はシャンプーごときで体が癌になる・・・とまでは信じなくても、実際に合成洗剤を使って食器を洗っていると、酷い手荒れになったり、シャンプーが合わなくて痒みやかぶれを起こしたりした経験を持っているので、そういう経験の上に、薬学博士という肩書きが後押しし信じてしまいそうです。
一旦信じると、もうあとは「経皮毒フリー」の商品を探し求めてしまうことでしょう。
実際に、ネットで「経皮毒」について検索すると、多くの本の他、経皮毒の有害性を説くサイトを多く見つけることができます。そしてそれらの大半は、「経皮毒フリー」を唄う、高額なシャンプーの販売サイトです。
本当に「経皮毒」なる毒物がシャンプーには含まれていて、そうしたショップは経皮毒に侵されない、自然派のとても良い商品を売っている善意の業者なのでしょうか?
市販のシャンプーの肩を持つ者は御用学者なのでしょうか(笑)
しかも博士号まで持つ人が言うくらいだし、信じてしまいそうです・・・本当に正しいのでしょうか?
さて、この理論のおかしい点を見つけていくには、「ウソだ」「根拠がない」などと頭から否定せず、シャンプーの成分から考えていけば見えてくるのです。
シャンプーの成分は商品の裏を見れば乗っています。
現在は平成18年の薬事法改正以降、医薬部外品も、全成分を商品ラベルに記載しなくてはならなくなっており、全成分が配合量の多い順番で載っています。
見ると、ラウレス硫酸Naや、スルホン酸なんとか、ココイルメチルタウリン、コカミドプロピルベダイン、なんたらTEA等々・・・聞いたことも見たことも無い薬品の名前がズラリと並んで、流石にこんなたくさんの化学物質を頭皮につけても大丈夫なのか・・・と、思う人もいるかもしれません。
しかし、これらは、シャンプーという商品を根本的に見ていくとどれも商品の安定性や機能性のために配合されているもので、それらの成分名から働きを考えれば肌荒れやカブレもちゃんと理由が見えてくるわけです。
一番の悪役成分は実はもう使われていない
まず、一番最初に、「経皮毒」の本やサイトで最も悪者成分として紹介されている「ラウリル硫酸ナトリウム」について話を進めていきましょう。ラウリル硫酸ナトリウムは非常に強力な界面活性剤であり、強力な脱脂作用があります。ネズミの毛をバリカンで刈り取り、ラウリル硫酸ナトリウムを塗布したネズミの大半は糜爛(びらん・ただれること)や脱毛、酷い炎症を起こすことが知られており、経皮毒のサンプルとしてよく紹介されています。
実際に人間の肌にも洗い落としがあると、かぶれや炎症を起こすことが多く、そうしたことから、悪の成分として代表的に紹介されています。
しかし、実はこの成分が配合された商品はほとんど使われていません。一部の商品では、塩を取り替えた、ラウリル硫酸アンモニウムという形で使っているメーカーもごく一部ありますが、ナトリウム塩で商品を出しているメーカーはほぼありません。
現在は、ラウリル硫酸ナトリウムの代わりに、改良された皮膚刺激性の低いラウレス硫酸ナトリウムを使うのが定石となっています。名前は似ていますが、皮膚への刺激はかなり低いです。
こうした成分の変化さえも無視して紹介している本やウェブサイトが氾濫している時点で、情報の信憑性が怪しくなってきます。
ラウリル硫酸ナトリウムだろうがラウレス硫酸ナトリウムであっても、理由は次回以降で解説しますが、皮膚から体内に侵入するということはあり得ません。ましてや発がん性といったとんでもない毒性のあるものは、さすがに厚労省が黙っていません(厳密にはエリート研究者揃いの厚労省の外郭研究機関が見過ごさないからです)。