亜留間次郎の「公平世界」の話：不公平な現実を受け入れよう

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現実世界は不公平だけどフィクションの世界は公平です

どうも、薬理凶室のケダモノ、亜留間次郎です。

人間は、代価を払えば同等の何かが得られると信じています。
それが現実からかけ離れていても、です。

公平な世界は人間が心の底から望んでいる物だから実在しなくても信じられます。
そして、フィクションは人間が望んでいる架空の世界を見せてくれることで代価を得ています。

つまり、現実がどうなっていようと、フィクションの世界は公平で無ければなりません。
そうじゃないと読者から嫌われて売れなくなるからです。

公平なフィクションと不公平な現実

払った対価に見合う報酬の原則は、フィクションのあらゆるジャンルに存在しています。

スポーツ漫画やバトル漫画で、過酷な特訓の果てに必殺技を手に入れて敵を倒すのも「過酷な特訓という代価」によって強い力が手に入る公平な世界だからです。

公平なフィクションの世界では上限無く鍛えただけ強くなります。
だから、バトル漫画は強さのインフレが止まらなくなるのですが、現実にはそうはなりません。

「筋肉は裏切らない」という言葉がありますが、あれは実際には、

「筋肉は裏切らない、でも関節や内臓は裏切る」

です。
このように、どんなに鍛えても上限値が決まっていて、鍛えた抜いた人間が1トンの車を持ち上げられるようには絶対になりません。
どんなに鍛えても一人で百人には勝てません。

フィクションの世界は公平だから、特訓の代価として強さという報酬が無制限に手に入ります。
現実は不公平なのでかならず物理法則に支配された科学的な限界が立ち塞がります。

不公平な現実は置いておいて、読者はフィクションに公平を求めています。
そのため、作者は理不尽な作品でも公平に作ります。

ジョジョのスタンド能力は一人一つしかありません。
呪術廻戦でも強い術式には術者に不利な条件がつかないと成立しません。
悪魔の実の能力は一人一つしか得られない事になっており、たくさん食べて何個も能力を持つのはアリエナイとされています。
まあ、一人だけ例外キャラが出ましたけど、これも何かの特殊な秘密があることで公平を保っているはずです。

現実だと、医師で弁護士のダブルライセンサーみたいな、悪魔の実の力を二種類使えるとか、スタンドを二つ持ってるとか、そういうチートみたいな人間が普通に居るけど、これは実在しても不公平だからフィクションでは駄目なんです。

現実世界はフィクションと逆で少ない代価で大きな報酬を得た人間が勝ちます。

多くの人間はコレを現実世界でも不公平で卑怯だと考えて非難するものです。
時には法規制にまで及ぶこともあります。

リスクは代償にならない

また、フィクションの世界では、リスクが高いほど得られる利益が大きくなります。
フィクションならリスクは対価として成立しますが、現実には全く無意味で成立しません。

フィクションの世界では、どんな行為でも物語上の必要性が無い限り失敗しません。
これは、物語上の必要性があれば、どんなに成功率が低くても成功する、とも言えます。

現実は違います。
情け容赦なく科学的な事実として確率的に失敗が起きます。

なので、リスクを減らすことに代価を払った方が得られる利益は大きくなるんです。
言われてみれば当たり前の話なんですが、実際にはフィクション的な公平世界というものを信じ込んでいて、

「負けた代償分の勝利があるはずだ」と錯覚し、ギャンブルで負け続ける、なんていう人間も少なくありません。

カイジがギャンブルで最後に勝てるのは作者が主人公に設定したからです。
現実世界に神に選ばれた主人公はいません。
ハイリスク・ハイリターンはフィクションの世界でしか成立しないのです。

とはいえ、物語としては、ハイリスク・ハイリターンが喜ばれます。
用意周到に準備された結果として成功した現実の事例でも、まるでハイリスク・ハイリターンの成果みたいに言われる事は珍しくありません。
これは、そのままだとつまらないので、報道される途中で物語として面白おかしく脚色されるからです。

史実とされることでも、実際には伝達過程で物語化されるので、フィクションと同じ原理原則が介入してきます。

多くの史実は一般人に伝わるまでに、伝記作家や史実を元にしたフィクションを書く作家によって、読者に気持ちのいい物語に改造されているのです。

現実に無謀な賭けに出てはいけません。
成功する為に必要な準備をできた人間が成功するのが現実です。

手に入らない物を尊重してはダメ

フィクションには不老不死のキャラクターが良く出てきます。
不老不死は古代から多くの人間が渇望してきた普遍的な物だからです。
そして、フィクションにおいて不老不死は否定される側に回されます。

なぜなら、不老不死は、大富豪や権力者や最強の武術家みたいに、現実には手が届きそうな気が全くしないからです。
世界最強は、全人類でたった一人だけなら入手可能性があるからアリなんです。

ワシはこうしたモノを『入手可能性がゼロなモノ』と呼んでいます。
全員が渇望するけど誰にも手に入らない物は、否定しないとフィクションが成立しません。

だから主人公が不老不死の場合は死ぬ方法とか普通になる方法を求めたり、敵なら主人公側に否定されて倒されたりする設定になります。
ワシはこうした不老不死の扱いもフィクションにおける公平な世界だと思っています。

現実がどれほど不公平でもフィクションの世界で不公平は許されません。

フィクションの世界では科学的な正しさは重要ではありません。
どんな物理法則に反していてもフィクションの世界では何の問題もありません。

しかし、不公平な描写は問題になります。
ワンピースで突然、特別な背景もなく当たり前のように普通の敵として、悪魔の実を3個食べて、3つの力を使う能力者が出てきたら、読者から嫌われるでしょう。

契約は必ず守る

現実世界では契約が守られないことは日常茶飯事です。
だからこそ、公平なフィクションの世界では契約は絶対に守られます。

その代表格が悪魔です。

悪魔は魂や命を対価として特別な力を与えてくれます。
これこそ人間が考える理想的な公平世界です。

• 理解しやすい明瞭な説明と契約
• 契約は絶対に守られる
• 人間の魂に特別な価値がある
• 無価値な人間でも特別な対価を持っている

こうした要素は人間が常に現実世界で踏みにじられてきた物です。
だからこそ、フィクションの世界では絶対のルールとして尊重されます。

不公平な現実との折り合い

昔から、漫画やアニメは子供の見る物、大人になったら卒業しなさいと言われてきました。
これは、

公平な夢の世界から目覚めて、不公平な現実を見なさい

ということです。
ヒーローが漫画やアニメの世界にしか居ないのも、公平が保証されたフィクションの中でしか存在できないから。
ヒーローは、不公平な現実世界には、存在し得ないのです。

それなら、子供に漫画やアニメを見せずに、不公平な現実だけ見せたらと思うかも知れませんが、それは教育上悪いです。

不公平な現実を受け入れるには、精神的にも肉体的にも成熟していないと無理だからです。
未熟なうちから辛い現実だけ突きつけるとダメ人間になってしまい、一切の努力を放棄してしまいます。

保護者の保護下にあるうちなら、家庭内などの局地的なところで、公平な世界が成立しています。
そして、公平な物語というのは、未熟な子供向けの、簡単な人生勉強なんです。
小学一年生にいきなり辛い特訓をしたらくじけてしまうから、順を追う必要があります。

問題は、中年になっても現実から目を背けている場合です。
そんな人間になってしまうと、社会的敗者まっしぐらです。

そういう人ほど「ワンチャンある」みたいな、ハイリスク・ハイリターンを信じたギャンブルに挑みがちなのですが、

実際には、現実が見えていない、幼稚で残念な人でしかありません。

酷い言い方ですけどね。

しかし、漫画やアニメから卒業しろと言われるのは「不公平な現実を受け入れろ」ということであって、一定の年齢に達したら見るなと言う意味ではありません。
だからオッサンがアニメを見ても漫画を読んでも良いのです。

そして、ここまで言ってきた「公平世界」は、フィクションの作品を作る時に守らないといけない、原理原則であるのです。